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海外学術誌『Frontiers in Sociology』採録・掲載
木村篤信ら執筆 社会システムデザインの実践(大牟田リビングラボ)をまとめた論文


株式会社地域創生Coデザイン研究所(代表取締役所長 北山 泰三/以下、地域創生Coデザイン研究所)ポリフォニックパートナーの木村篤信らが執筆した地域創生や共創に関する研究論文「Social system design methodology for transitioning to a new social structure – a holistic urban living lab approach to the well-being city」が、Social innovationやCivil societyのトピックを扱う海外学術誌Frontiers in Sociologyに採録・掲載されました。
 
 
地域創生Coデザイン研究所では、現代社会の社会システムの限界が多様な社会課題を生み出し、また、地域の持続可能性が失われつつあるという課題意識にもとづき、それを乗り越える手法として共創・Coデザイン・リビングラボ※1のアプローチを主題とし、持続可能な地域社会への変革に向けた実践や方法論の研究、人材育成、仕組みづくりに取り組んできました。
地域の課題解決や地域創生に限らず、企業や研究機関においても、一人ひとりの価値や、地球規模の価値を問いなおし、社会的価値を生み出すことが求められる時代において、その実践に向けて、前述の方法論以外に加えて、トランジションデザイン、システミックデザイン、エシカルデザインなど、デザイナーの価値観・倫理観・理念の転換が必要とされる方法論が注目されています。
2018年より地域パートナーである大牟田未来共創センターとともに取り組んできた大牟田リビングラボの活動は、まさにこの領域に資する実践であり、その実践やそれを体系化した社会システムデザイン方法論は、これまでに学術的な発表※2や受賞※3に加えて、メディア※4や書籍※5などにより取材されてきました。

今回の論文は、「社会システムがどのように変われば、社会全体、世界がよりよいものになっていくのか」という大牟田未来共創センターの問いに対する考え方や実践の仕方について、記述し、社会システムデザイン方法論としてモデル化するとともに、他の事例分析に基づいて検証した内容となっています。

<論文の概要>

産官学民が共創する取り組みは、これまでも多数取り組まれてきましたが、目の前にある問題の解決に意識が向きすぎていて、ウェルビーイングやサスティナビリティなどをめざすための根本的な問題解決に向かっていないことが課題でした。たとえば、子どもの不登校のような目の前にある事象が起きたとき、個別にその子が登校できるように親や学校や地域で手を尽くそうとします。しかし、何も学級登校に拘ることばかりが本質ではないはずです。根本的な問題としては、その子がその子らしく学べる環境を提供できるかどうか、ではないでしょうか。そう考えると、学校の教育現場やそのあり方(教育システム)そのものを転換することが、その子だけでなく、同じような生きづらさを感じる子どもたちにとっても必要な根本的に解決すべき問題となります。
本論文では、セクターを超えて共創して地域創生や社会課題解決に取り組むアプローチについて、社会を構成するシステムそのものを転換する実践の分析を行いました。そして、根本的な課題解決に取り組もうとする実践者への示唆とするべく、社会システムデザイン方法論としてモデルを提案し、類似事例による検証を行っています。
選挙や市民活動などの従来の社会運動のアプローチがうまく機能しない日本社会において、ウェルビーイングな地域の暮らしやサスティナビリティなビジネスモデルを生み出すための一助になればと思います。

<論文詳細情報>

  1. タイトル:
    Social system design methodology for transitioning to a new social structure – a holistic urban living lab approach to the well-being city (新たな社会構造に転換するための社会システムデザイン方法論 ~ウェルビーイングな都市に向けた包括的なアーバン・リビングラボ)
  2. 著者:
    Atsunobu Kimura(木村篤信)1, Hisashi Haraguchi(原口悠)2, Yutaka Yamauchi(山内泰)2, Katsuta Matsuura(松浦克太)1
    1Co-Designing Institute for Polyphonic Society(地域創生Coデザイン研究所)
    2Centre for Person-Centred Ningen, Omuta(大牟田未来共創センター)
  3. 掲載URLはこちら

※1:リビングラボとは、サービスの利用者である生活者と、サービスの提供者である企業・行政などが共にサービスを創る(共創する)方法論です。(引用:木村,(2021)「高齢者を支える技術と社会的課題」第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題、(調査資料2020-6)国立国会図書館調査及び立法考査局

※2:大牟田リビングラボに関わる学術的な発表
木村,林,赤坂,渡辺,井原 (2019),パーソンセンタードデザイン:その人らしい暮らしを目指す人間観に基づくデザイン方法論, 日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会
木村, 山内, 原口, 松浦, 林(2020)リビングラボを組み替える地域主体~ポニポニ(大牟田未来共創センター)の社会課題へのアプローチ~、ヒューマンインタフェース学会研究報告集、Vol.22, No.7
木村,原口,山内,松浦,原口,(2021),新たなアーキテクチャを見出す地域共創プラットフォーム~リビングラボが産業イノベーションを起こす可能性~,ヒューマンインタフェース学会研究報告集、Vol.23, No.6

※3:大牟田リビングラボに関わる受賞
【グッドプレゼンテーション賞受賞】
木村,林,赤坂,渡辺,井原 (2019)、持続的なリビングラボ運営に向けた地域経営モデルの構築と実践,日本デザイン学会研究発表大会概要集、Vol.66, pp.476
【グッドプレゼンテーション賞受賞】
木村, 原口, 山内, 松浦, 金(2021),持続的な活動/持続的な変化に向けたリビングラボ概念の拡張, 日本デザイン学会 第68回春季研究発表大会
【TOP SELECTED PAPERS】
Atsunobu Kimura et al.(2022),Social System Design Methodology for Transitioning to a New Social Structure, In Proc. of Open Living Lab Days 2022

※4:メディア掲載
▼地域と企業の共創による「地域密着型リビングラボ」共同実験
・九州朝日放送,2018/2/26,「KBCニュースピア」.他
・朝日新聞,2018/2/27,朝刊,ICTで課題抽出し解決、市とNTTが協定結ぶ.他
▼地域と企業が新しい形で関わり合うパーソンセンタードリビングラボによる社会課題解決の共同実験
・日本経済新聞,2019/9/2,夕刊,大牟田市・NTT西日本など、パーソンセンタードリビングラボによる社会課題解決の共同実験を開始.他
▼わくわく人生サロン
・西日本新聞.2020/3/6,朝刊,”語り合い 生き方探る”.
▼社会課題の解決と新たな価値創出を実現する奈良リビングラボ構築に関する共同実験
・日本経済新聞,2020/11/10,夕刊,奈良市・TOMOSU・NTT西日本、社会課題の解決と新たな価値創出を実現する奈良リビングラボ構築に関する共同実験を開始.
▼TOMOSUの拠点BONCHIがオープン
・毎日新聞,2021/1/20,朝刊,BONCHI(奈良市) カフェや書店、イベント空間も 持続可能な創業の場 /奈良.
▼BNOCHIにコワーキングスペース(共同の仕事場)「TEN」がオープン
・毎日新聞,2021/8/14,起業は「庭園」空間で 共同仕事場オープン 寺院、古民家利用も
▼Well-beingな地域社会の実現に向けた研究プロジェクト
・毎日新聞,2023/3/16,朝刊,モデルルームで生活体験 高齢者が戸惑わぬよう 大牟田・市営歴木住宅解体・移転前に /福岡.
▼VRを活用した地域とつながるプロジェクト
・NHK,2023/3/12,「ニュース645福岡」,大牟田 高齢者がVRでまち歩きの気分を楽しむ.
・有明新報,2023/3/4,朝刊,VRで地域とつながる.他
▼人の暮らしを中心としたDX・イノベーション創出・地域共生社会の実現に向けた地域創生に関する連携協定
・日本経済新聞,2023/2/27,夕刊,人の暮らしを中心としたDX・イノベーション創出・地域共生社会の実現に向けた地域創生に関する連携協定を締結.
▼横浜デジタル地域経営研究会
・神奈川新聞,2023/12/15,朝刊,DXで地域参加、もっと.横浜市内で研究会発足.
▼サステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラム連載記事
超高齢社会「以後」の地域経営モデル ぐにゃりのまち 【前編】まちづくりの新しいOS/【中編】リビングラボの構造転換/【後編】自律的な活動のはじまり
▼PUBLIC DESIGN LAB.連載記事
大牟田未来共創センター:「匂い」を呼びさます地域経営 〈前編〉/〈後編〉
▼NTT技術ジャーナル
地域と企業が新しいかたちでかかわり合うパーソンセンタードリビングラボ
住民主体のまちづくりの活動をICT・IoT技術で加速する新たな取り組み「データ循環型のリビングラボ」
▼NTT研究所発 触感コンテンツ+ウェルビーイング専門誌ふるえ連載記事
「UXを巡る旅」第1回:サービス作りにおけるプロトタイピング
「UXを巡る旅」第4回:ウェルビーイングを生み出すリビングラボ
「UXを巡る旅」第6回:住民が参加する共創の場のデザイン
「season4 ソーシャル・パブティクス」未来都市おおむた

※5:書籍掲載
一般社団法人 公共とデザイン(2023) クリエイティブデモクラシー 「わたし」から社会を変える、ソーシャルイノベーションのはじめかた
渡邊 淳司、 ドミニク・チェン(2023)ウェルビーイングのつくりかた 「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド

■木村篤信について

[写真]木村篤信
大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学を修了後、NTT研究所に入社。企業内に閉じられたデザイン研究・実践の限界を感じ、社会に開かれたソーシャルデザインの研究・実践プロジェクトを立ち上げる。福岡県大牟田市、奈良県奈良市との共同実験プロジェクトを協働する中で、NTT西日本と理念を共有し、2021年、NTT西日本グループの子会社である地域創生Coデザイン研究所の設立に関与し、参画。現職。博士(工学)。デザインイノベーションコンソーシアム フェロー。東京理科大学 客員准教授。
主としてHCI、CSCW、UXデザイン、リビングラボの研究開発に従事。デザイン研究のチームを牽引し、企業のサービスデザインプロジェクト、地域のソーシャルデザインプロジェクトを多数実践し、コンサルティングや教育活動も行っている。現在は、「人々が主体的に共創できる社会」という地域創生Coデザイン研究所のビジョンに向けて、社会課題解決やウェルビーイング実現に向けたデザイン方法論やデザイン人材教育方法論などの研究・実践を主題にし、大牟田市などの地域パートナーとともに、まちづくり、地域経営、サービスデザイン、社会システムデザインなどの文脈で新しいソーシャルデザインのあり方を探求中。2023年には、セクターを超えた共創であるリビングラボを普及展開に取り組むために、日本リビングラボネットワーク (Japanese Network of Living Labs)を設立し、代表理事に就任。著書に「2030年の情報通信技術生活者の未来像」(NTT出版|2015年)など。
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