CHAPTER 2 出会うべくして出会った、メンバー同志の”Co”な関係

Our Story
宮崎森林・林業DX
プロジェクト

クリスマスの出会いから、
大きく動き出したプロジェクト

地域になかなか受け入れてもらえないと頭を抱えていた湯地と赤阪に、光が差した。宮崎県森林組合連合会の大地さんとの出会いだ。宮崎県森林組合連合会(以下、県森連)とは、森林の整備から木材の生産・販売・加工流通に至るまで幅広い活動を行う宮崎県内の協同組合だ。大地さんは、以前は大学の農学部の助教として林業・山村について研究を行っていたが、その知見を活かし、現場で実践したいと考え県森連に転職してきた経歴の持ち主だ。湯地と赤阪がさまざまな人々との対話を重ねる中で、大地さんの紹介を受けたのがきっかけで初顔合わせをすることになる。

「森林・林業DXの構想を大地さんに話すと、その場ですぐに共感してもらえたんです。こんなことは初めてで。林業の専門家で、同じようなことを考えている人がいる!と驚いたのと同時に、なんと心強い人に出会えたのかと」

当時の感動を語る湯地の言葉に、赤阪も微笑む。

二人にとって、大地さんとの出会いはまさに光だった。実はこの大地さん、大学での研究や県森連での実務を通じて地域の林業にデジタル技術を導入することの必要性を感じ、実現に向けて模索していた人物だったのだ。一方の大地さんは、その日のことをこう振り返る。

「正直に言うと、顔合わせの場に向かう足取りは重かったです。県森連の仕事として、森林に関するデータ計測を行い管理保存する業務があります。ドローンを使用した計測の技術を持つNTTグループが、私たちの仕事を奪いに来たのではないか。極端に言うと、そんな恐れを抱いていました(笑)」

奇しくもこの日は2019年のクリスマス。そんな華やかな日に、薄暗い部屋での初顔合わせだったと振り返る。これはまぎれもない本音だが、その思いはすぐに一変することになったという。

「最初の30分でそんな気持ちは消え去り、一気に前向きな気持ちになりました。今までのお二人の歩みを聞くと本気で林業に向き合う熱意とそれを体現する行動力があることがわかり、人として信頼できると感じたのですぐに警戒は解けました」

少し気恥ずかしくも思える、初対面の思い出を互いに笑いながらざっくばらんに打ち明けあえるのも、互いに現在よい関係を築いていることの証だろう。当時の湯地と赤阪の構想は、現場の第一線で実践している人からするとリアリティに欠ける部分があったかもしれない。しかし、「部分的な困りごとを切り取り、自社のソリューションで解決します!」という営業的アプローチとはまったく異なり、地域林業の課題に真正面から向き合い、同じ目線で林業の未来を考えていることが伝わってきたのだと、大地さんは言う。既存の森林・林業に対して新しい価値提案をするという大きな構想を通じて両者は強く結びつき、チームとして立ち上がった。

もうひとりの林業のエキスパートが参画し、
チーム力が整う

2020年夏から秋にかけてプロジェクト体制は強化され、関わる人数も増えた。だが、林業における真のDXの実現は容易ではない。そこに強力なメンバーが加わった。大学で林業を専攻した後、林業コンサルタントとして活躍していた経歴を持つ、川井だ。林業に関わる幅広い業務を行う中で、フィールドワークだけでなくICT系の技術にも精通していた川井。林業とITという、一見遠く見える分野をつなげることで新たな価値を提供したいという思いから、このプロジェクトに参画するためにNTT西日本に入社した。

「10年ほど林業に関わり続けてきましたが、宮崎は日本の林業の先頭を走っていることを実感していました。その宮崎で新しい価値を生み出す仕組みをつくることができたら、他の地域にも広げられるのではないかと思ったのです。どのような人達が、どのように宮崎の林業を成立させているのか興味があったので、今までゆかりのなかった宮崎に飛び込む決意をしました」

入社後程なくして宮崎に赴任し、毎日のように林業関係者と言葉を交わし、向き合うようになる。

「特に新型コロナウイルスの感染拡大以降は、私がなかなか大阪から宮崎に行けなくなってしまったので、宮崎にいる川井さんの存在には助けられましたね。林業の知見があるので林業関係者との重要なコミュニケーションもとてもスムーズで、宮崎と大阪をつなぐ大きな役割を担ってくれました」

赤阪が言うと、大地さんもうなずく。

「林業の専門家であることはもちろん、ICTに精通した技術者でもある川井さんの加入はとても心強かったです。川井さんが林業とICTをつないでくれることで森林・林業DX構想が一歩ずつ具現化していくのを感じました」

“思い”でつながることを大切にしていた湯地も、川井と共鳴した。

「川井さんは技術や知識があるだけでなく、森林に対する“思い”があった。だから、一つひとつの業務が“作業”以上のものになるんですよ。一緒に夢を描くことができる仲間としても心強いものを感じています」

かくして、チーム力は整った。気さくな人柄と誠実さを武器に、粘り強く丁寧に林業関係者との関係構築や合意形成に取り組む湯地。林業の将来を見据え、林業関係者との連携、意見集約の役割を担う林業のプロ、大地さん。林業に関する思いを胸に専門的な知識や経験を生かし、林業とICTをつなぎ合わせる川井。そして、構想実現に向けたプロジェクト全体を牽引しながらも、宮崎内外のパートナー開拓や仲間づくりを続ける赤阪。個性も専門性も異なるメンバーが、ひとつの志のもとに結束しチームとなった。

“Co”な関係を築く、
プロジェクトメンバーたち

「プロジェクトメンバー同士が、お互いの名刺を持ち合おうかなんて話も出ていますよ(笑)」

大地さんがこう語るのには訳がある。構想の実現に向け、地域関係者と対話をする際には、湯地、赤阪、川井が県森連について熱く語り、大地さんがNTT西日本や地域創生Coデザイン研究所の思いについて説明する、といった具合で組織や役割の垣根をまったく感じさせない。

宮崎の現地に入り込み活動する川井は、物理的距離が離れている大阪の地域創生Coデザイン研究所のメンバーとの垣根のなさも教えてくれた。

「週に何度もWeb会議をして密にやり取りをしているので、心理的距離は感じないですね。何かあったらすぐ相談できる、そんな距離感です」

その他にも、サーファーの顔を持つ湯地に、林業の担い手不足に関する悩みを大地さんが相談し、サーフィンと林業をつなげた就職イベントの企画につながったこともあるという。また、湯地と川井は、平日は山のことを考え、休日は一緒に海や川へ釣りに行く。

この4人には、出会うべくして出会ったプロジェクトチームのメンバーであるという以前に、役割や肩書きの鎧を脱いだ、ひとりの人間同士としてのゆるやかな関係性が生まれているようだ。林業や地域に対しての志をともにすることと、メンバーそれぞれがフェアでフラットな関係性を大事にしていることが、次の一歩、また次の一歩と前進を続ける本プロジェクトの原動力となっている。

その根幹にあるのが、地域創生Coデザイン研究所の理念だ。ひとつは“Co”。 それが意味するところは「co-worker(同僚)」、「co-operation(協力)」という英単語が示すとおり対等な関係。もうひとつが“ポリフォニー”。それは、個々の意識や声が、まとまって溶け合うことなく一つひとつ大切な価値を持っているという考え方。まさに本プロジェクトのメンバーたちは、組織や既存の枠を超え、 “Co”と“ポリフォニー”を体現していると言えそうだ。