炭が気候変動対策に役立つ?(福井県福井市)
バイオ炭の農地施用による炭素貯留をめざして(福井県福井市)
地域創生Coデザイン研究所ではGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みを通じて地域のパートナーとともに持続可能なまちづくりをめざしています。今回、福井県福井市を訪問し、農業分野のJ-クレジット創出をめざした取組みについてヒアリングしましたので、ご報告します。
温室効果ガスといえば、まず人間活動によって排出される二酸化炭素を思い浮かべるかたが多いでしょう。農業分野でも農業機械や園芸施設などの化石燃料の燃焼にともなう二酸化炭素の排出がなされますが、それに加え、メタンや一酸化二窒素が排出されます。具体的には、水田から土壌中に存在する菌の活動で生成されるメタン、家畜のゲップやふん尿から排出されるメタンや化成肥料由来の一酸化二窒素などです。二酸化炭素と比べて、メタンは約28倍、一酸化二窒素は約265倍の温室効果を持ち、カーボンニュートラルに向けてはメタンや一酸化二窒素の排出を抑制することも求められます。
また、農地は森林や海洋などとともに重要な炭素吸収源にもなりえることから、近年注目を浴びています。特に「バイオ炭の農地施用」という国際的にも認められた吸収源活動は、大気中の二酸化炭素を吸ったバイオマスなどの有機物を農地に施用すると、有機物が土中で分解されずに土の中に残り、土壌中に二酸化炭素が貯められる(炭素貯留)と考えられ、二酸化炭素の吸収源となることが期待されます。なお、「バイオ炭」とは「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」として定義され、温室効果ガスの排出削減用や吸収量を「クレジット」として国が認証するJ-クレジット制度においても「バイオ炭の農地施用」が方法論として策定されており(※)、全国でも徐々に取り組みが広まりつつあります。
今回、この「バイオ炭」の製造装置を開発・販売する福井市の事業者を訪問しました。福井県内は福井平野を中心に「ハナエチゼン」や「コシヒカリ」、「いちほまれ」をはじめ、お米の生産がさかんな地域です。この米生産のプロセスでは、もみ殻が大量に発生しますが、このもみ殻は農地にすき込まれ、土に還るほか、利用できないものは廃棄物として処理がなされています。今回訪問した事業者様では、もみ殻を原料としてバイオ炭を製造する装置を開発されています。この装置を使って、利用されないもみ殻を原料として燻炭化してバイオ炭が製造されますが、このバイオ炭を福井県内や近隣エリアの農家の田んぼや畑に施用し、農作物を栽培することを予定しています。
バイオ炭は土壌の透水性や保水性を改善するなどの土壌の品質を高め、作物の生産性を向上させる効果もありますし、これまで使われなかった未利用資源をリサイクルし、さらには二酸化炭素を地中に貯留し、気候変動対策にも貢献できるという優れものです。この取り組みによって貯留された炭素はJ-クレジットとして認証され、認証されたクレジットを販売することで農家の方々の新たな収益とすることができるため、持続的な農業と脱炭素社会の両立につながるものと考えられます。
今回訪問した事業者様では、福井県内をはじめとしてバイオ炭の農地施用によるJ-クレジットの創出・活用を通じた地域の脱炭素の実現と循環型社会の実現をめざされています。地域創生Coデザイン研究所は、J-クレジットのプロジェクト登録の支援を通じて、一次産業分野でのJ-クレジットの取組みを加速化し、持続可能な産業とまちづくりの実現に向けて活動してまいります。
※J-クレジット制度の方法論