地域の未来は“共に楽しむ”中で育つ ~地域創生アドバイザーと語る「共創」と「地域創生」の新しいかたち~
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人口減少や少子高齢化が進む中、多くの地域では担い手不足や産業構造の変化への対応が求められています。一方で、地域には歴史や文化、人材、自然など、未来につながる多くの資源が存在しています。地域創生Coデザイン研究所は、地域が持つ多様な資源や可能性に着目し、産学官民の共創による持続可能な地域づくりを支援しています。
地域創生Coデザイン研究所では、多様な専門家と連携しながら、地域の魅力を活かした地域創生に取り組んでいます。
今回は、地域創生の本質と共創の重要性テーマに、地域創生アドバイザーである篠田隆行氏(金沢大学教授)、大久保武氏(愛媛大学准教授)、田中尚人氏(熊本大学准教授)と、地域創生Coデザイン研究所 担当部長の渋谷勝也へのインタビューをご紹介します。
■高度成長から人口減少へ――「地方」ではなく「地域」へ
――最初に、皆さんと地域創生の関わりをご紹介ください。
篠田氏:地域経営と高等教育論を専門とし、金沢大学の先端科学・社会共創推進機構や、2024年の能登半島地震を契機に設立された能登里山里海未来創造センターで教授を務めています。大学は教育・研究にとどまらず、地域と共に課題に取り組む役割が求められています。私は学長補佐として、大学が地域の「第三の居場所」になることを意識しながら、産業界や自治体と連携した活動を進めています。

大久保氏:愛媛大学大学院の地域レジリエンス学環で准教授を務めています。それまでは愛媛県西条市役所で23年間働いていました。現在は自治体職員の皆さんと協働しながら自治体の政策マネジメント支援を行っており、愛媛大学では未来価値創造機構やSDGs推進室の仕事にも携わっています。

田中氏:熊本大学大学院の先端科学研究部で准教授をしています。専門は土木史と景観まちづくりで、熊本では文化的景観保全や世界遺産と共生するまちづくりに取り組んでいるほか、2016年の熊本地震以降は地域創生、文化的処方*など社会教育的な共創の場のデザインに関わっています。
*薬ではなく文化的・芸術的活動によって心と身体の健康に良い影響をもたらし、幸福度・ウェルビーイングを高めようという取り組み
参考:熊本市現代美術館HP (https://www.camk.jp/region/cultural/)

渋谷氏:Coデザイン研究所でまちづくり領域を担当する主幹研究員として産官学民との共創をベースとしたプロジェクトを推進しています。Coデザイン研究所の立ち上げから携わっており、先生方とは5年ほど継続的に協働してきました。

――そもそも地域創生とは何で、どのような思いで取り組んでいますか。
篠田氏:高度経済成長期は専門性を細分化し、効率を追求すれば成長できる時代でした。しかし今は人口減少の時代で、従来のモデルでは地域の複雑な課題を解決できません。これからの地域創生は、社会全体のさまざまな人たちを巻き込んでいくことが必要です。大学が地域の人々にとって自宅や職場以外の「第三の居場所」となり、産業界や自治体の人々と交わることで、新しいイノベーションを生み出していけると考えています。
大久保氏:「地方創生」という言葉が生まれた2014年。当時、私は自治体の現場で地域の方々と向き合っていましたが、「地方」という中央—地方の構図を前提とした言葉に違和感があり、その頃から「地域創生」という言葉を選択することにこだわってきました。
一方で、国が掲げる「地方創生」という概念は制度上の枠組みとして示されているため、説明の際にはその言葉を用いることになります。今は人口減少を前提にまちづくりを進めていく「地方創生2.0」の時代に入り、まさに大きな転換期にあると感じています。これからは都市部からの移住者を奪い合うのではなく、地場産業を基盤に拠点経済の形成、エコシステムの構築をめざしていくことが重要です。その中で大学は、客観的なデータ分析を通じて、その「道しるべ」となる役割を担えると考えています。
田中氏:地域創生の取り組みが国レベルで本格化し始めた頃から土木分野としては珍しく地域創生に関わっており、熊本地震の後に、じつは創造的復興と地域創生はつながっているなと感じるようになりました。私は、地域創生にはインフラ整備に加えて「シビックプライド(地域への誇り)」が大切だと考えています。これは、地域への誇りを土台にし、その思いを原動力として地域をより良くしていこうとする意識のことです。シビックプライドは簡単に育つものではありませんが、地域社会の中で子どもが育ち、若い世代が自然とまちづくりに関わっていける環境が整うことで、少しずつ育まれていくものだと思います。
渋谷氏:地域創生は企業の一対一のビジネスとは異なり、一対多・多対多で取り組むのが特徴です。自治体・地元企業・大学・住民と取り組みを進めるには、まず共創フレームワークを作り、具体的なプロジェクトを通じて実践値を蓄積していく必要があります。そのうえで試行錯誤を重ねながら、ビジネスとしても構造化していく。先生方とは、こうしたプロジェクトを日々一緒に、そして楽しく進めています。

■効率化にとどまらない付加価値の実現もICTの役目
――地域創生には立場を超えた共創・協働が不可欠であることが見えてきました。その中で、NTT西日本が得意とするICTも欠かせないツールだと思います。地域創生におけるICTの重要性と、ICTを活用した取り組み例を教えてください。
渋谷氏:地域創生をビジネスとして成立させるには、ICTが欠かせません。先ほど申し上げたように、地域創生は従来の一対一のビジネスと異なり、自治体・地元企業・大学・住民による「多対多」の関係で成り立っています。社会と共生しながら取り組みを進めていくうえで、ICTは共創・協働につなげる仕組みをつくる重要なツールです。
例えば、大久保先生が西条市の職員だった頃から一緒に取り組んできた「地域ポイントを活用した持続可能なまちづくり」の事例があります。この取り組みでは、地域での消費活動や健康増進活動に対してポイント還元を行うほか、ボランティア活動やSDGsへの貢献にもポイントを付与するサービスを導入しました。産学官民が一体となってプロセスを組み上げることで、ステークホルダーの共創・協働につながる成果が生まれました。
大久保氏:地域創生におけるICT活用というと、効率化ばかりが注目されがちです。しかし人口減少が進む今、ICTは市民生活の付加価値を高めるためにも活用できます。西条市での地域ポイント事業はまさにその一例で、私自身も制度設計に携わりました。
市民活動を支えるプラットフォームが整うことで、自治体の業務負担は軽減され、市民側の付加価値も向上します。さらに地域ポイントが地元店舗の購買につながるなど、地域経済への好循環も生まれる。ICTは単なる効率化ツールではなく、地域に価値を還元し、地域創生にもインパクトを与えるものだと考えています。

篠田氏:平成の大合併で自治体数はほぼ半減しましたが、自治体が対応すべき施策は増え続けています。今後はビッグデータを活用しながら発想を転換し、新たなイノベーションを創出していくことが求められます。ICTは、そのための重要な基盤です。
田中氏:ツールとして「どう活用するか」が重要ですよね。私はよく桃太郎の話を引き合いに出して、目的と手段を取り違えてはいけないと話しています。桃太郎にとって鬼退治は手段であって、本来の目的は村の平和を守ること。ICTによる効率化も同じで、効率化そのものが目的ではありません。
ICTが担う本当の役割は、効率化によって生まれた時間を、人間にしかできない仕事に振り向けられるようにすることだと思います。ICTを活用し、「楽しさ」や「面白さ」をベースに地域創生に取り組めば、より良い方向へ進むのではないでしょうか。
――NTT西日本・地域創生Coデザイン研究所とはどのような取り組みを行っていますか。
篠田氏:数多くの取り組みを一緒に進めています。Coデザイン研究所と共に自治体の伴走支援を行うこともありますし、先ほどお話しした「第三の居場所」となる社会人向けの学びの場づくりにも取り組んでいます。
産業界・行政・民間が横断的につながる機会をつくることで、普段関わることのない人たちが出会い、地域創生という同じ目的に向かって協働できる場が生まれます。こうした共創・協働・横串のつながりこそが、まさにCoデザイン研究所の「Co」の価値なのだと実感しています。また、地域に密着するNTT西日本グループだからこそ、都市部の大手企業と地元企業が交わる場づくりが実現できたと評価しています。

田中氏:Coデザイン研究所とはいつも「楽しい」を起点に新しい取り組みを進めています。私が意識しているのは、「ありそうでなかった、あったらいいなという小さな場」を作ることです。誰かが言い出さないと始まらないことを、自ら進んで形にしていきたいと心がけています。
例えば「マチノガッコウ」という取り組みがあります。これは小学生にまちなかの魅力を発見してもらうプログラム(まち歩きやものづくり)を高校生たちが作り、小学生と一緒に熊本のまちなかを体感することで新しい魅力を創造していくプログラムです。そこに大学生や商店街、市役所なども関わり、まさに多様な主体が交わることで化学反応が生まれています。

またNTT西日本の得意分野である人流調査を活用し、対面アンケートと組み合わせて「街を笑顔で歩く人の割合」を可視化するプロジェクトも行いました。街を歩く人たちの表情が暗いようでは、いくら人が多くても“良い街”とはいえません。今は、この成果をまちづくりに活かすため、熊本市の施策に結びつけようとしています。
行政・民間企業・大学ができることはそれぞれ異なりますが、それらを集めたらどうなるのか。「交ぜる」をベースに、サステナブルなまちづくりに向けた「楽しい」試みを、Coデザイン研究所と共に展開しています。
大久保氏:私は人口動態の分析から制度設計、社会実装、人材育成までを一貫して進める役割を担っています。奈良県三郷町ではCoデザイン研究所が受託した総合戦略の策定を、アドバイザーとして支援しました。このとき、Coデザイン研究所の尽力により「地域幸福度(Well-Being)指標」と自治体の施策体系を適切に紐づけることができ、素晴らしい成果につながりました。今後はより大きな自治体でのモデルケースづくりや、地域に入ったうえでのエコシステム形成、自治体職員の人材育成の場づくりについても、Coデザイン研究所と検討しています。
渋谷氏:「Well-Being」を紐解くと、まずは個人の価値観として「楽しい」といった主観的な要素から始まり、やがて「地域のつながり」をはじめ社会全体、「自然・環境」など地球全体の価値観へと視野が広がっていきます。NTT西日本・Coデザイン研究所では、共創の場づくりや能登地域の復興など、さまざまなプロジェクトをこのWell-Being指標と結びつけ、人・社会・地球レベルでの調和をまちづくりのベースとして取り込んでいます。先生方には、人・社会・地球全体をより良くしていく最初のトリガーをつくるパートナーとして、これからも一緒に取り組んでいただきたいと考えています。
■失敗を恐れず“ワクワク”をベースに挑み続ける
――両社に期待することを教えてください。
篠田氏:本来、大学の研究は失敗から新しい発見が生まれるものですが、近年は、学生などの若者を中心に、失敗を過度に恐れてしまう空気が広がっているように感じます。だからこそ、「失敗しても大丈夫」ということを大人が伝え、成功体験につなげていくことが重要です。
その点、Coデザイン研究所は実際に数多くの失敗と向き合い、学びながら実践を繰り返している稀有な存在です。さらに、NTT西日本という強いバックボーンがあるからこそ、「都市と地方」ではなく「地域と地域」をつなぐハブとしての役割を果たしてくれるのではないかと期待しています。

大久保氏:NTT西日本とCoデザイン研究所は、入口である課題設定から出口である実装・運用までを見据えた伴走体制が整っている点が大きな特徴だと思います。地域にとって信頼できるパートナーであり続けてほしいと強く感じています。
田中氏:NTT西日本とCoデザイン研究所にはまず地域それぞれのコモンセンス(共通認識)をつくる安心・安全なハブのような存在になってほしいと思っています。加えて、未来を作っていく人材を育成するという面でも期待しています。

――今後、地域創生に関してどのような挑戦をし、何を実現したいですか。
篠田氏:私は政府が掲げる「成長戦略」という言葉、そして「成長」といいながら一方で「持続可能」を求める戦略に、違和感を抱いています。本来、持続可能をめざすのであれば、成長を前提とする発想からは一度離れるべきです。
これまでの時代は「選択と集中」による「より速く、より高く、より強く」の三本柱が評価されてきました。しかしこれからは「適度に、広く、しなやかに」といった「分散と多様」の考え方が求められます。そして皆さんがお話しされていた「楽しい」というキーワードも、これからの地域創生において非常に重要だと思います。その視点を忘れず、若い世代の皆さんと歩んでいきたいと考えています。
大久保氏:私は元自治体職員という立場もあり、地域創生の担い手である自治体職員の疲弊がとても気になっています。だからこそ、自治体職員が本当の意味でプライドを持って仕事に向き合える環境づくりをサポートしたいと考えています。そこで求められるのは、がっちり固まったコミュニティではなく、緩やかにつながるコミュニティです。そうした場に多様な立場の人々が集まり、互いに関わり合うことで、新しい価値が生まれていく。そうした環境づくりに、これからもこだわっていきたいですね。
田中氏:地域創生には「不易流行」という考え方が必要だと思います。サステナブルとは、変わらないために変わり続けるということ。地域においても、100%真っ白、あるいは真っ黒といった極端な状態は、おそらく存在しません。だからこそ、余白や遊び、そして楽しめる部分を互いの間柄に見つけ、その部分を「いいね」と言い合えるようなまちづくりを、これからも進めていきたいと考えています。
渋谷氏:先生方のお話を伺い、私自身の中でもワクワク感が高まってきました。地域創生も突き詰めれば、そこに尽きるのだと思います。課題は山積していますし、失敗も苦しいことも数多くあるでしょう。
それでも乗り越えていくためには、思いやビジョンを共有し、共感しながら一緒に取り組む仲間を増やしていくことが必要です。Coデザイン研究所としても、また私個人としても、ワクワクを大切にしながら挑み続けていきたいと思っています。

――最後に、地域創生に課題を抱える、あるいは関心を持つ読者にメッセージをお願いします。
篠田氏:「楽しい」を大切にしながら、一緒に地域の未来を考えていきましょう。
大久保氏:多様な人が緩やかにつながる場が、新しい地域の価値がうまれます。お互いが無理なく意見を言い合い、関わり合える関係を地域の中で一緒に育てていきましょう。
田中氏:余白や遊び心、楽しめることにこそ地域の人々は力を注ぎます。お互いに「いいね」と言い合えるまちづくりをめざしていきましょう。
渋谷氏:思いやビジョンを共有できる仲間を持つことが、地域創生を進めていくにはとても重要です。ワクワクする気持ちを持ち続け、一緒に挑戦しましょう。
■持続可能な地域の未来に向けて
人口減少や社会環境の変化が進む中でも、地域にはまだ多くの可能性が眠っています。
地域創生Coデザイン研究所は、NTT西日本グループが持つICTやデータ活用の知見に加え、大学や自治体、地域企業とのネットワークを活かしながら、地域に寄り添った共創を推進しています。
大切なのは、「地域に何が足りないか」ではなく、「地域に何があるのか」を見つめること。そして、多様な人々がつながり、楽しみながら未来を描いていくことです。
これからも地域創生Coデザイン研究所は、地域の皆さまと共に、新しい価値創造と持続可能な地域づくりに取り組んでまいります。

※本記事は、2026年3月27日にマイナビニュースに掲載されたインタビュー記事を、掲載許諾のもと再掲載・一部編集したものです。
