はじめてのリビングラボ #4:リビングラボを続けるべきか、やめるべきか —3つのレイヤーから考える運営の処方箋—
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「予算はどうするんですか?」
「続けていくためのお金がないんですけど……」
これらは、リビングラボの運営に関わる人から頻繁に投げかけられる問いである。長期的に当事者やユーザと共に試行錯誤することを特徴とするリビングラボでは、活動を続けるほど、資金をどう維持するかという運営上の課題が重くのしかかってくる。
冒頭画像は、デザイン学会の学生大場心晴さんに書いていただいた書籍「はじめてのリビングラボ」のグラフィックレコーディング。書籍を概観できるのでご覧いただきたい。
しかし、冒頭のような悩みを持っている人たちは、本当に「予算がないと動けない」のだろうか。人もいて、やることも見えているが、予算がないために停滞しているプロジェクトもあるだろうが、そうではないケースも多い。例えば、一部だけでも自分たちでやり始めることができるのに、運営経験者がいないから人を雇わないといけないと考えている場合がある。あるいは、プロジェクトを行うだけでいいのに、いきなりリビングラボ・プラットフォーム運営に着手しようとしている場合もある。
こうした問いを丁寧に紐解いていくと、必ずしも資金そのものが最大の障壁になっているわけではないことがわかる。むしろ、複雑なリビングラボの活動の中で、自分たちがどの部分に取り組んでいるのかが整理されないまま、「続けるためにはお金が必要だ」と一括りに捉えてしまっていることが、悩みを大きくしているのである。
そこで本コラムでは、書籍では十分に扱えなかった「リビングラボ運営」に焦点を当て、日本リビングラボネットワークのリビングラボ基礎セミナーで共有している内容を共有する。複雑なリビングラボを一つの活動として捉えるのではなく、構造的に3つのレイヤーに分けて捉え直すことで、「なぜ続かないのか」「どこにお金が必要なのか」を整理して考えてみたい。
リビングラボ運営における資金面の課題は、なぜ深刻化するのか
多くの現場で共通して見られる課題として、資金の問題がある。始めること自体は、勢いや個人の熱量で可能だが、その後が続かない。補助金や委託事業に依存すると、年度単位で活動が途切れるリスクも高い。長期的な取り組みであるリビングラボに対し、継続的に資金を拠出してくれる主体を見つけることも容易ではない。
こうした問題は短期的なプロジェクトでも起こりうるが、関係性や学びが蓄積されることに価値があるリビングラボでは、より深刻な影響を及ぼしやすい。しかし、これらの課題を「最初からすべて解決しなければならない問題」と捉えると、リビングラボは途端にハードルの高い取り組みに見えてしまう。そこで重要になるのが、リビングラボの活動をレイヤーごとに分けて考える視点である。
リビングラボは3つのレイヤーから成り立っている
図1:リビングラボの3つのレイヤー(※1)をもとに筆者作図

学術的な議論では、リビングラボは大きく3つのレイヤーに分けて整理される。最も小さい単位が、個別のワークショップや調査などを行う活動ステップのレイヤーである。
その次に、一定期間とテーマをもって複数のステップを束ねるプロジェクトのレイヤーがある。そして最も大きな単位が、複数のプロジェクトを長期にわたって支えるプラットフォームのレイヤーである。重要なのは、これらが「発展段階」ではなく、同時に存在しうる異なる構造レベルだという点である。
①活動ステップのレイヤー:最小単位の実践
活動ステップのレイヤーは、リビングラボの手法を活用して活動を進める、最も小さい区切りである。利害関係者との関係性づくりやリクルーティング、フィールド調査、インタビュー、共創ワークショップの設計と実施、プロトタイプのテストとフィードバック、結果のアーカイブ化やナレッジ共有など、プロジェクトを進めるための実務的な段階が該当する。(なお、詳細なリビングラボ実践プロセスは、書籍「はじめてのリビングラボ」の第4章「リビングラボのプロセス」をご覧ください。)
このレイヤーの特徴は、必ずしも大きな予算を必要としない点にある。手法さえ学べば、既存のプロジェクトの中に小さく組み込むこともでき、個人の時間や関係性を活用することで成立する場合も多い。にもかかわらず、このレイヤーに対して「最初から予算が必要だ」と考えてしまうと、実践の入口が閉ざされてしまう。
②プロジェクトのレイヤー:説明可能な成果を生む単位
プロジェクトのレイヤーは、特定のテーマや期間をもって実施される活動であり、複数の活動ステップを含んだまとまりである。テーマや目標が明確で、成果を説明しやすい点が特徴であり、プロトタイプ開発、実証実験、社会実装の試みなどが該当する。多くの場合、企業や自治体がリビングラボと関わるのは、このプロジェクトのレイヤーである。成果が説明可能であるがゆえに、予算を確保しやすい一方で、期間が終われば活動も終わるという性質を持つ。
ただし、プロジェクトに取り組むには、当事者やユーザとゼロから関係性を築くには時間やコストがかかる。そのため、ゼロから自分で立ち上げるのではなく、既にリビングラボを運営しているプラットフォームと連携し、協力を得てプロジェクトを実施するのも有効な選択肢である。(自分のプロジェクトに適したリビングラボ・プラットフォームを探したい方はこちらから)
③プラットフォームのレイヤー:活動を支える土壌
プラットフォームのレイヤーは、個々のプロジェクトを生み出し、支える土壌のような役割を担う。関心を共有する人々の緩やかなネットワークを維持し、失敗や中断を許容する心理的安全性を育み、共創の進め方に関する暗黙のルールや判断基準を共有する。さらに、活動や学びを相互に蓄積し、次のプロジェクトへとつなげていく。
一方で、このレイヤーは成果が見えにくく、プロジェクト型の予算とは相性が悪い。機能が確立されるにつれて、運営負荷が高まったり、内向きになったりする副作用も生じる。重要なのは、プラットフォームを「完成させること」ではなく、状況に応じて動的に調整し続けることである。
構造として捉えることで、「続ける/やめる」を選び直せる
このように、リビングラボを「続けるかどうか」を考える際には、3つのレイヤーを分けて捉えることが重要になる。すべてのレイヤーを同時に維持しなければならないわけではない。活動ステップに立ち戻ることも、プロジェクト単位で区切ることも、プラットフォームを縮小・停止することも、いずれも状況に応じた合理的な選択である。レイヤーを切り分けて考えるからこそ、“立ち止まる”選択が可能になる(※2)。構造として捉え直すことで、リビングラボは「続けるか、やめるか」という二択ではなく、現実的な選択肢の中で再設計できる活動になるのである。
図2:3つのレイヤーを理解すると、状況に応じて、どのレイヤーでの活動を行うのかを選択することができる

なお、欧州や韓国では行政や大学がリビングラボの主要な財源となっているが、萌芽期である日本(※3)では、リビングラボ・プラットフォームの価値を研ぎ澄ませることが求められる。そこで、日本リビングラボネットワークでは、文部科学省の研究費での調査等を通じた政策的な予算確保に向けた提言活動と、リビングラボ・プラットフォームを維持するためのビジネスモデルに関する研究調査(※4)を進めている。ご興味のある方はご連絡いただきたい。
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- Schuurman, D. (2015). Bridging the gap between open and user innovation? : exploring the value of Living Labs as a means to structure user contribution and manage distributed innovation.
- これは、第2回のコラムでも述べたように、「うまくいかなくなったら、一度立ち止まり、仲間とともにのんびりと振り返り、主体的に動き出せるタイミングを待てばいい」という表現の具体的な処方せんと言える。
- たとえば、文部科学省所管の国立研究開発法人JSTによるRISTEX「ケアが根づく社会システム」事業などでは要件に組み込まれている。https://www.jst.go.jp/ristex/funding/care/index.html
- 坂東,北詰,木村(2025)リビングラボにおける持続的なビジネスモデルの構築を支援するツール開発,第72回土木計画学研究発表会.
