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EVENT REPORT

「社会変革を実現するリビングラボ」を終えて

社会変革を実現するリビングラボ

基調講演:これからの社会デザインに向けた日本の共創アプローチ

−第4回全国リビングラボネットワーク会議開催レポート−

「社会変革を実現するリビングラボ」と題して開催された第4回全国リビングラボネットワーク会議。
今年は例年を大きく上回る300名弱の方々にご参加いただき、大阪・関西万博のコンセプト「People's Living Lab」への
関心の高さや社会課題解決の実践における共創の必要性が高まっていることを感じました。
基調講演では「これからの社会デザインに向けた日本の共創アプローチ」と題して、
公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会の羽端大さんに、社会デザインを開いていくアプローチの一環として、
People’s Living Labをコンセプトとする万博の活動や新しい政策デザインに向き合う
「社会のデザイナー」のあり方などについて語っていただきました。
また、参加者の質問も交えながら、地域創生Coデザイン研究所の木村篤信との対話もお届けします。

羽端 大

公益社団法人
2025年日本国際博覧会協会、
一般社団法人 STUDIO POLICY DESIGN

2011年、経済産業省入省。産業技術政策、政府成長戦略の策定及び国内外広報、イノベーション政策、スタートアップ支援政策、文化経済政策などに従事し、2018年には官民連携のスタートアップ支援プログラムJ-Startupを立ち上げ。2020年10月より、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会において、2025年大阪・関西万博の企画業務を担当。2018年より、米国パーソンズ美術大学大学院において、デザインと政策に関する研究に従事(MFA/美術学修士号)。一般社団法人STUDIO POLICY DESIGN共同設立者/理事/政策デザイナー。

共創のアプローチに至る経緯

――羽端大さんの講演は、共創のアプローチを意識し始めたこれまでの経緯から始まりました。内閣官房時代に感じた政策やその成果を伝えることの難しさ、経済産業省時代の起業家との関わりの中で感じた政策担当者のミクロな視点の欠如。そして、それらのもやもやを解消する可能性をデザインや共創アプローチに感じ、デザインスクールへの留学へと繋がりました。

羽端

自分の中のもやもやとデザインの可能性を感じてデザインスクールを志しました。もやもやの一つは、内閣官房でアベノミクスの企画広報を担当していたとき、政策や成果を伝えることの大切さと難しさを感じたことです。もう一つは、スタートアップ政策を通じ、起業家は大きな視点を持ちつつ、ミクロな視点で物事を捉えながら課題解決にコミットしていると感じましたが、地方自治体や国の政策担当は鳥の目だけでなかなか芯を食った政策が打てていないのではないかと感じていました。

そんな中、デザインやクリエイティブの領域で世界的に有名なデザインスクール「パーソンズスクールオブデザイン」に留学しました。その中で、トランスディシプリナリデザイン(Transdisciplinary Design)という、代替的未来をデザインアプローチで創造するプログラムにおいて、とにかく手を動かしてなにかをアウトプットするという経験を2年行いました。

木村

そのような想いや経験を踏まえて、帰国後に、デザインアプローチを取り入れた政策立案実行(経産省版デザインスクール)や、大阪・関西万博といった活動につなげられているんですね。

政策の現場が抱える課題を乗り越えるには?

――羽端さんは世論調査の結果から、「政策に民意が反映されていない」という政策の現場での課題を読み解き、国民が参加できる場を広げるアプローチの重要性を語ります。複雑化した社会の状況を踏まえると、国民の想いを受け止めた政策の立案や推進、そのためにデザインや共創的なアプローチを取り入れていくことが、政策デザインのめざすべき道の一つであり、これまでの行政職員が苦手とした、曖昧な状況での動き方やミクロな解像度の上げ方を培っていくことになるのではと言います。

羽端

かつては実現したい将来像やそのために解決するべき課題がわかりやすい時代がありましたが、現在は、実現したい将来像やそのために解決すべき課題がわかりにくい状況にあります。この曖昧さは、公務員や行政機関は非常に苦手で、実現したい将来像のアプローチの解像度が粗く、限定的であるという課題があると感じています。
これからの政策の現場では、デザインアプローチや共創的アプローチを通じてプロセスの解像度を上げることで、それぞれの項目を繫げることができるのではないかと期待しています。

社会のデザイナーたちの共創

――プレゼンの最後に、「社会のデザイナー」という言葉がでてきました。「政策」でも、「ビジネス」でもなく、「社会」のデザイナー。行政だけ、企業だけでない共創的アプローチを考える上で、大事な示唆です。羽端さんは、社会のデザイナーにおけるポイントに、フラットさを挙げています。作り手と受け手という関係性の構造を壊し、作り手も受け手も社会の構成員の一人としての立ち位置を持つ、それによって真の意味での共創に近づけるという意味です。まさに、リビングラボのめざす構造転換と重なります。

羽端

これから公務員や行政主体がどういう役割を担えるかというところで、「社会のデザイナー」をめざして行くべきだと個人的に思っています。それにはマクロの視点だけではなくて、1人の国民のミクロの視点が、これからの公務員に求められます。行政だけがなにかを動かしていけるということではなく、民間も含めて一緒に作っていけるような「うねり」を生み出していきたいと思っています。

木村

「社会のデザイナー」という表現は非常に示唆的です。公務員は社会のデザインと言いながら、結局、部分的な政策のデザインを担っていた気がします。企業の社員もビジネスを通じたデザインなので、部分的です。これからの「社会のデザイナー」の大事なポイントは何でしょうか。また、今までの公務員と、そのあり方の大きな違いは、どういうところにあるとお考えですか。

羽端

マクロな視点だけでなくミクロな視点を持つことが最初のステップだと考えています。もう一つは社会のデザイナーと呼んだ時に、マーケットの発想だけでなく、フラットな関係性で社会をどうやってともに作っていくかというところがポイントです。これまでの政策は、作り手側と受け手側という構造があります。社会のデザインとしての共創は、自分自身も社会の構成員としての立ち位置をもち、政策も一緒に作ります。そこまで行きつかないと、これだけ多様化した課題に着弾するような政策を作ることは難しいと感じています。こういった視点から、デザインアプローチを取り入れた行政政策立案である経産省版デザインスクールへも取り組んでいます。

誰が社会のデザイナーになりうるのか?

――社会のデザインがさまざまな人に開かれていくトレンドが、基調講演で紹介されたデザインの動向や、アメリカイギリスの事例からもよくわかりました。羽端さん自身も国民が参加できる場を広げるアプローチを志向されています。ただし、そこには、共創アプローチの土壌が必要です。そこで、ここでいう国民とは誰なのか、デザインが開かれるさまざまな人とは誰なのか。そして、その人たちが社会のデザイナーになるために必要な環境について、議論が交わされました。

木村

「国民が参加できる場を広げるアプローチは、今までは非常に限られていたと思います。もちろん若い人がどんどん参加するのが望ましいですが、我々中高年も参加できるように考えていただきたい。」という会場からの質問です。一般的に、広く呼びかけてワークショップをやると、若い人やテクノロジーに関心のある人たちが来てしまいます。リビングラボでも、動員的なインセンティブなしで、多世代の人たちに意欲を持って参加してもらうことの難しさが課題として挙げられます。このあたりについて羽端さんの考えはありますか。

羽端

先ほどのアンケート結果は世代別に少し数値に違いがありましたが、年齢による感覚の差を重要視するというわけでなく、自ら考えて提案したいと思える感覚を持っている方々と取り組むことが大事です。しかし、実際にみんなが一斉に参加しましょうという仕立てが難しいのも現実です。物理的にもそうです。そのため、「興味ないよ」という人たちを無理やり起こすのではなく、まずは、「こういうことをやってみたい」という人たちと取り組もうとすることが大事だと思います。

木村

やりたい人や意欲を持っている人が集まる場の重要性は、リビングラボに限らず、ワークショップやフューチャーセンターの文脈でも語られてきました。「無理やりでない」ということは非常に大事なポイントです。一方で、リビングラボの取り組みが盛んだといわれるデンマークと日本を比較すると、一般的に「社会に関わりたい」と思うことや「社会の出来事を自分ごととして感じやすい」こと、さらには、自分が社会にアクションできているという「手触り感」をもちやすいといった、社会側の環境要因の違いが影響しているという分析もあります。このように、環境の要因もセットで捉えることで、政策的なアプローチが発展していくのではないかという可能性を感じますね。