第2回 オープンカレッジ「自然資本を活用した森林・林業DX によるカーボンニュートラル社会の実現」 について
株式会社地域創生Coデザイン研究所(代表取締役所長:木上秀則)は、2022年7月26日(火)に地域創生Coデザインカレッジ 第2回オープンカレッジを開催しました。
会場となった QUINTBRIDGE※1での現地参加やオンライン視聴で200名以上にご参加いただきました。
「一次産業・地域循環型社会〜自然資本を活用した森林・林業DXによるカーボンニュートラル※2な社会の実現〜」と題し、住友林業 岡田 広行氏や宮崎県森林組合連合会 大地 俊介氏をお招きし、農林水産分野における課題や今後のあり方について、赤裸々に意見を交わしました。
1 QUINTBRIDGE(QUINTBRIDGE HP): NTT西日本が運用するオープンイノベーション施設。
2 カーボンニュートラル(環境省HP):温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。
■オープニング
- 株式会社地域創生Coデザイン研究所
代表取締役所長 木上 秀則
<地域創生の取り組みについて>
地域創生Coデザイン研究所では、2022年秋に社会課題を共有し、向き合う場として「地域創生Coデザインカレッジ」を開講すると発表しました。
NTT西日本グループは、面的なつながりを持って、社会課題の解決に当たるため、 Smart 10x※3や地域共創拠点の QUINTBRIDGEを開設し、取り組みを加速させています。当カレッジでは、NTT西日本グループが取り組む地域創生プロジェクトの実践知を共有し、参加者と地域創生Coデザイン研究所が一緒に悩み、知恵を出し合いながら地域創生の①実践力研鑚(共学)、②実践・活性化(共創)、③つながり(共鳴)を実現していきますと意気込みを語りました。
また、当カレッジを体験していただくために、全3回にわたりオープンカレッジ実施するとし、「観光・スマートツーリズム」をテーマに実施した第1回オープンカレッジの内容を振り返りました。
3 Smart 10x(NTT西日本HP):地域のデジタル化やスマート化に資するNTT西日本グループ各社のサービスラインアップの総称。
■トークセッション
「汗かき奮闘記」
〜ここでしか聞けない現場のリアル〜
自然資本を活用した森林・林業DXによるカーボンニュートラル社会の実現
- 住友林業 資源環境事業本部 山林部
グループマネージャー 岡田 広行 氏 - 宮崎県森林組合連合会
労働安全山づくり対策室 室長 大地 俊介 氏 - 事業構想大学院大学 事業構想研究所
教授 河村 昌美 氏 - NTT西日本宮崎支店 ビジネス推進担当
主査 川井 祐介 氏 - 地域創生Coデザイン研究所
担当部長 赤阪 祐二
<イントロダクション
~森林・林業をとりまく環境、森林・林業DXの概要~>
赤阪
はじめに森林・林業を起点とした地域と都市のつながりについてです。自然資本である森林が持つ多面的な機能は健全なライフサイクルによって保たれてきました。
森林では土砂災害の防止、生物多様性、水源かん養※4、木材製品やCO2吸収源としての役割が果たされ、都市部へ豊かな森の恵みがもたらされます。
一方、都市部では、森林の恵みが都市木造化による炭素固定やCO2吸収(カーボン・オフセット※5)に重要な役割を果たしています。そして、非財務指標の可視化やESG投資※6など、山づくりのプロセスやストーリーに「ひと・資金・技術」が環流し、地域と都市がこれまで以上につながろうとしています。
それを支えるのはデジタルの技術だと考えています。
続いて、森林・林業を起点とした地域活性化についてです。
NTT西日本グループでは、2019年から森林・林業を起点とした地域活性化を進めてきました。
1つめの「地域課題探索」では、真の地域課題や主体性のあるパートナー探しを行いました。
2つめの「シナリオ構想創り」では、地域のパートナーと共創し、社会課題解決プロセス・シナリオの策定を行いながら、事業構想を練ってきました。
そして、現在は「構想具現化の追求」に至っています。ドローンや人工衛星を活用し、地域のデータと重ね合わせることによって、地域の皆さまに価値を提供できる手前まできています。
デジタル化によって、川上(生産者)は効率的な森林経営や再造林の促進。川下(消費者)は国産木材の活用促進やエネルギーの地産地消の実現をめざします。
今後、「社会実装」でめざす世界観は、森林のCO2吸収量をクレジット化※7し、カーボン・オフセットを行う企業をつなぐことによる、カーボンニュートラルの実現です。
本日のトークセッションは、3つのテーマ「持続可能な森づくり」「国産木材の活用促進」「カーボンニュートラルと地域づくり」で進めていきます。
<持続可能な森づくりについて
~適切な森林経営・再造林の促進~>
赤阪
日本の多くの森林では、主伐期を過ぎても伐採ができなかったり、再造林が進まなかったりという課題があります。その中でも林業では先進的に進めている宮崎の取り組みについて、大地さまからご紹介ください。
大地
宮崎県は木材の生産量が全国で北海道に次いで第2位※8です。また単位面積あたりの生産量では1位です。
宮崎の木材生産がなぜ進んでいるかというと、宮崎にとって林業は大事な基幹産業だからです。森の資源をいかに活用すべきか考え続けてきた結果として、現在は木材流通が安定しています。
宮崎は林業先進県と言われる一方で、課題先進県でもあります。林業において大切なことは「木を伐ったら植える」ことです。宮崎の課題は、伐採量に比べ植栽量が少ないため、将来の供給計画に不安がある点です。
森林組合の立場としては、木を伐ったらいかに植えるか、森林所有者の方へ植林の意識付けや資金と労働力の調達が大きな課題になっています。また、デジタル化を取り入れることによって、(森林の状況を可視化し)森林所有者の方に植林への意思決定を促したり、森林組合の作業効率を上げたりしなければならないという危機意識もあります。
宮崎では先進県として、課題にも先進的に取り組んでいるということです。
赤阪
再造林と一言でいってもさまざまな課題が絡み合っていることがわかりました。
全国の森林・林業に携わっている岡田さまからみて、再造林の課題はどのようなところでしょうか。
岡田
再造林が進まないことは全国的にも問題になっています。
宮崎だけでなく、全国的にも森林に占める人工林の割合は高く、植えてしまった樹木の管理をどうするかという課題があります。便利な土地ばかり伐って植えないことを繰り返しており、便利でない土地は放置されています。同じ森林面積であっても資源戦略的な観点から非常に問題であると感じています。少なくとも、現在、主伐や皆伐※9が行われているところは、再造林を進めるべきでしょう。
また、主伐が盛んに行われた後、再造林が進まない課題として指摘されているのは、①林業で得られる収益が少ないため、再造林にまで資金が回らない。②人手と苗木が不足している問題。③苗木を鹿などに食べられないよう獣害対策に資金が必要という点です。
昨今のコロナ禍やウクライナ情勢により、ウッドショック(木材の供給が不足し、価格高騰)が起きたことで、森林所有者の収益が上がりました。しかし、検証は必要ですが、収益の問題が改善されたことで再造林率が上がったかというと、そうではないように感じています。
それはなぜかと言うと、より大きな問題として、森林所有者の再造林に対する意欲がないことや長期的な森林経営に対するビジョンがないことが挙げられます。
長期的な森林経営、つまり、木を植えてから育て、主伐したらどれだけの利回りがあるのかを考えにくいということです。小規模な山では森林経営が成り立つのかということもありますし、集約化して地域で森林経営をするとなれば、経営母体をどうするのかということもあります。
個別の原因だけを追求しても再造林は進まないと思っています。
赤阪
デジタルやICTの力でも、森林所有者の意欲を高めるのは難しいのではないでしょうか。
実際に宮崎県諸塚村でデジタル化に取り組んでいる川井さんが、現場で困っていることや苦労していることはどんなことですか。
川井
林業はもともと顔の見える範囲で市場が形成されてきた歴史があります。
デジタル化のご提案をすると、信頼関係を構築できるのかという点で疑問を持たれることがあり、理解を得られるまでが課題です。
デジタルと実際に現場で行っている作業をどう融合させていくか、地域の方と一緒に考えていく必要があると思っています。
赤阪
課題の解決に向けて、河村さまよりご意見はございますか。
河村
これまでのお話を伺って、特に一次産業はさまざまな課題が複雑に絡み合っているのが分かったところです。本日も人材の問題、DXによる効率化、集約化、経営体をどうするのかなどたくさんの課題が挙がりました。
個人や小さな形態で解決できる問題ではないと感じました。
人材や人手不足と関連して、1つ伺わせてください。
林業は危険を伴う場面もある産業だと思いますが、若者は林業に関心を持っているのか、どのような傾向があるかお聞かせください。
大地
若者の林業への関心の向け方についてですが、就労先として、一定程度の関心を持っていただけていると思います。統計的に見ても、林業就労者の平均年齢が下がってきており、現場でも若返りが進んでいる実感があります。
特に宮崎ではUターンが多い傾向があります。
岡田
各地域で状況は違うと思っていますが、どこに住んで、どこで仕事をするのかはライフステージにうまく合わせていくことだと思います。
今はアクセスも良くなってきていますので、いろいろな場所に住んで、林業のある山で働くことも可能になってきていますので、柔軟に考えるべきではないかと思います。
河村
地域創生Coデザイン研究所では、まさにwell-beingをめざしています。
well-beingの重要な要素の1つは、選択肢があって、選べることです。
IターンでもUターンでも選択できる情報が得られて、バックアップがあり、ライフスタイルに合わせて選べる。その選択肢の中に、普通に林業という仕事があることが、若者にとって良いなと思いました。
複雑に絡み合った課題を整理するのは難しいことですが、well-beingにつながってくると良いなと思っています。
大地
宮崎では、定着している若い方も多いです。それは林業が仕事として回り始めているからだと思います。
河村
地域創生では「仕事を作る」ことがとても大切です。特に林業のような一次産業で生計を立てられるのは大事なことです。
岡田
林業の中でも、伐採や搬出は機械化が進んでおり、若い方でも参入しやすくなっています。
造林や下刈りをするところは、まだ若い方の参入が少なく、高齢化が進んでいます。しかし、最近では造林に特化した企業を若い方が起業する例もあります。造林のメリットは、個人のスケジュールに合わせて計画できることや設備もチェーンソーや草刈り機1つあれば作業ができる手軽さがあります。そうした魅力が伝われば、新規参入も増えるのではないかと期待しています。
<国産木材の活用促進
~安定供給・建物の木造化~>
赤阪
ウッドショックやウクライナ情勢を受けて、日本の林業で変化は出ていますか。
岡田
ウッドショックはここ2年間くらいの話になります。
その中で2回山があり、1回目は北米を中心に住宅需要が高まったものの、コロナ禍で従事者が確保できず、需給のバランスが崩れたこと。2回目はロシア、ウクライナからの木材輸出が滞っていることです。
それぞれ日本の木材や木材製品に与える影響は違いましたが、一番意識しておかなければならないのは、日本の国産材の価格が世界の影響を受けやすくなっているということです。
これまで日本は円高などの影響もあり、木材マーケットのリーダーでした。しかし現在は、日本が世界の状況に左右され、日本国内で消費する国産材ですら世界の価格変動の影響を受けています。
マーケットプライスリーダーではなくなってしまった日本が、今後、どのような形で林業を考えていくか、ウッドショックはフェーズが変わった重要な起点だと思います。
これは今後、地域の林業を行う上でも、世界を意識せざるを得ないということです。
赤阪
先人たちが植えた森林資源を持続的に活用していくための施策は民間企業だけでなく、国や地域でも考えていかなければならないことと理解しています。大地さまはその解決の糸口をどのように捉えていますか。
大地
正直、課題は見えていますが、解決の糸口までは見いだせていません。
2000年頃、林業は斜陽産業と呼ばれ衰退期でした。
しかし、現在はカーボンニュートラルやウッドショックなどの影響で、国産材が見直され、業界の動きに注目が集まっています。
経済的にも新しいことを始めやすい状況が生まれている中で、全ての木材に関連する産業が連携して仕事ができているかと言うと、まだできていません。
業界ではウッドショックをチャンスにと言われていますが、さまざまな主体が利害関係を超えて、どのように地域のため、社会のために動けるのかが問われていると思います。
赤阪
東京2020オリンピック・パラリンピックでは大量の国産木材が競技場建設で使用されました。また、2025年の大阪・関西万博でもパビリオンでの国産材活用が見込まれています。このことを受けて、林業界での動きはありましたか。
岡田
オリンピック・パラリンピックや万博で、国産木材を使って、さまざまな地域から集めていこうという動きは良いことだと思います。
一過性で終わらせず、日ごろの林業活動にどうつなげていくのかが大切です。
特にオリンピック・パラリンピックや万博では、トレーサビリティが求められます。合法的な木材が使用されているかという話も含めて、いつ、どこで、だれが生産した木材なのかを明確にすることは手間がかかります。こうした情報共有をICTで効率化して、定着させていくことが重要ではないでしょうか。
ユーザーがどこの木材か意識して使える環境と情報を整えていくのは、業界として良い方向になると思います。
赤阪
木材のエネルギー利用について、地域とのつながりも含めて、川井さんいかがですか。
川井
木材の有効利用を視野に、エネルギー利用を考えると変換効率が良いのが熱利用です。
地域への還元という意味でも、地域にある公益の温浴施設などへ持続的に木材を供給する仕組みを主軸に、薪の供給を通した都市部との連携は有効だと思っています。
大地
生産者の立場からすると、木材は50年かけて育てるものですから、想いを込めて生産しています。
木材はさまざまなものに活用できますが、大黒柱になって高く売れてくれたらいいな、などと売る側も売り先(売り方)を選びたいと思っているものです。買う側もだれから(どこから)買いたいか希望があると思います。それをつなげていけるのがICTで、今ならできるという期待があります。
今後はますます異分野と林業を連携させていかなければならないと感じています。
赤阪
作り手の気持ちやだれにどう使っていただきたいかという価値提供が重要ということですね。
大地
そうですね。無駄なく使ってほしいと思っています。
最後は、どこかで誰かを温めて終わるのが最高のシナリオです。
<カーボンニュートラルと地域づくり
~CO2吸収源としての森林~>
赤阪
林業という産業だけでなく、地域づくりや人をどう呼び込むかといった切り口で、岡田さまに解決策の糸口はありますか。
岡田
地域にどうやって人を呼び込んでいくかは、どういう形で仕事をつくり、盛り上げていくのかが鍵となると思います。
林業では、森林の多面的機能を上手く使って、人を呼び込んでいこうという流れになっています。
かつては、山で働きたいと思っても、技術や体力の部分で断念していた方もいらっしゃったと思いますが、今は、「森林サービス産業※10」という考え方があります。例えば、林業と観光業の連携によって、さまざまな仕事をつくることができれば、雇用が増え、観光客を含めた交流人口が増え、人を呼び込みやすく、魅力も高まるだろうと思います。
赤阪
通い林業と言われることもありますが、子育て世帯が定住を検討するのはハードルが高いのでしょうか。
大地
現在は林業の働き方も多様化しています。
林業というと、山に飯場を設けて、一度山に入ったらなかなか下りてこられないというイメージをお持ちの方もいると思いますが、生活インフラ、産業インフラ、特に林道が整備されたことにより、50km離れたまちから、現場に通っている従事者の方もたくさんいます。
赤阪
皆さまに山づくりへ参画していただき、ファンになっていただくために、労働力、資金や技術など何らかの形で関わってもらうことは重要だと思います。
今、関わってもらうために必要なものはどんなことでしょうか。
岡田
女性用の衛生設備など、林業でも女性活躍の機会が増えてきていますので、関連する整備が必要かと思います。
また、地域はまだまだ、自分たちが持っているものの価値に気が付いていないところがあります。
外からのアイデアを入れる必要があるかもしれませんし、自分たち自身で再度洗い出しする必要があるかもしれません。
地域の資源の分析を通してゾーンニングし、それぞれのゾーンに適した活用の仕方を、森林サービス産業への活用を含め議論し、収益向上に向けて検討することが必要だと思っています。
4 水源かん養(岡山県HP):雨水を吸収して水源を保ち、あわせて河川の流量を調節するための森林の機能。
5 カーボン・オフセット(環境省HP):削減努力をしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資し、埋め合わせること。
6 ESG投資(経済産業省HP):従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと。
7 クレジット化(環境省HP):植林や間伐等の森林管理により実現できた温室効果ガス削減・吸収量を、定量化(数値化)し取引可能な形態にしたもの。
8 令和3年木材統計(農林水産省HP)
9 主伐や皆伐(林野庁 関東森林管理局HP):(主伐)更新または更新準備のために行う伐採もしくは複数の樹冠層を有する森林における上層木の全面的な伐採。/(皆伐)森林を構成する林木の一定のまとまりを一度に全部伐採する方法。
10 森林サービス産業(林野庁HP):林空間を健康、観光、教育等の多様な分野で活用する新たなサービス産業のこと。
■体験講義
地域創生を実践していくポイントとは?
- 地域創生Coデザイン研究所
取締役 Coデザイン事業部長 兼 戦略企画部長
中村 彰呉
<地域創生を進める上で要となる活動>
地域創生Coデザイン研究所が進める地域創生の活動のポイントである①総合的な地域課題へのアプローチ、②地域関係者とのパートナー・共創関係の構築、③地域目標・住民目標の獲得、④地域におけるデータ活用、⑤構想に終わらせない具現化推進(社会実装)から、④地域におけるデータ活用、⑤構想に終わらせない具現化推進(社会実装)について講義しました。
データ化によって地域資源を見える化することがスタート地点。地域ビジョンの実現に向けて、他分野のデータをかけ合わせたデータ活用モデルなどの必要性を説きました。
また、持続可能な社会実装とするために、サプライチェーン全体に最適分配する中間的な存在が重要であると述べました。